外科的療法

はじめに

婦人科疾患の外科的治療法には、大きく分けて全摘術と保存的手術の二つがあります。 良性疾患の場合は通常、「挙児希望の有無」、つまり今後子供を産む予定があるか、ということが、 どちらの術式を選ぶかのもっとも重要な判断基準にされています。
しかし、私たちの子宮は子供を産むためだけにあるのでしょうか? 
子供を産む予定がなかったら、摘出してしまってもいいのでしょうか? 
「生まれてきたときのままのからだでいたい」という希望を持つ人もきっといることでしょう。 やはり本人の「子宮温存希望の有無」こそが、術式選択の判断基準とされるべきではないでしょうか。 「もう子供をつくるつもりはないんでしょう?」などという一言に押切られずに、本当に自分が求める治療を選択しましょう。 但し、「五体満足、臓器がすべて揃っていてこそ完全なからだ」という考え方に縛られるのもどうかと思います。 子宮がなくても健康な生活を営むことはできます。自分にとっての健康とは何なのか、それも考えて決めることが大切です。

なお、一般に私たちが「手術」と呼ぶ、からだの組織にメスを入れるような外科的な手術のほかに、最近は 血管の中に細い管(カテーテル)を送り込んで病巣に対する処置を行なう治療法(子宮動脈塞栓療法=UAE)や、 MRIで病巣の位置を確認しながら超音波を集中照射する治療法(集束超音波療法=FUS)といったものも登場しています。 以下、外科的治療とUAEおよびFUSについて、子宮筋腫・腺筋症の場合と子宮内膜症の場合に分けて説明します。

1.筋腫核出術

これは筋腫のかたまり(コブ)の部分だけを切り取って子宮は残すという保存的手術で、筋腫ができている部位、 コブの大きさによって術式も大きく違ってきます。 漿膜下筋腫や筋層内筋腫の場合は、開腹ないしは腹腔鏡を使用して、子宮の外側からメスを入れていきます。 子宮の内側に突出している粘膜下筋腫の場合は、腟の方から子宮鏡という器具を入れて筋腫のコブを切り取る方法もあります。 これはお腹を切らないのでからだへの負担は少ない方法です。 しかし、どの筋腫の場合も、もっとも一般的に普及しているのは、開腹で子宮の外側からメスを入れていく術式のようです。 腹腔鏡・子宮鏡による核出術は、筋腫の大きさ、数、出来ている場所などによって、適応範囲が限られて来ます。

核出術の場合難しいのは、コブの部分だけを切り取ったあと、その傷痕を縫いあわせていく作業です。 有茎漿膜下筋腫、有茎粘膜下筋腫といって、コブが茎のようなものの先にできていてぶらぶらしている場合は、 その茎の部分を切ればすむわけですが、子宮の壁に直接メスを入れてコブを取った場合は、 何層にも重なり合った子宮の筋層を一層一層丁寧に縫いあわせて行かなくてはならないのです。 数が多ければ時間もかかりますし、出血も多くなります。 従って、輸血が必要になることもあるので、自己血輸血(前もって自分の血を採って貯めておいて、 手術中輸血が必要になったときにはそれを使う)が可能かどうか、担当医と相談した方がいいでしょう。

核出の手術をした後に、筋腫が再発する可能性についてはいろいろなデータがあります(15~45%)。 年齢が若ければ若いほど、当然再発する可能性は高くなります。 また、レーザーメスを使おうが何をしようが、筋層内部に潜み、MRIにも写らないような筋腫の小さな芽まで 完全に取りきることは不可能です。 ですから「うちに来れば子宮を取らずに完全に治り、絶対に再発することはない」 などと宣伝する医療機関には注意した方がいいでしょう。

 

 

2.腺筋症核出術(子宮筋層切除術)

子宮腺筋症の手術は一般に全摘手術しかないと言われていますが、腺筋症は大きく分けると、 病変部が子宮全体に一様に広がっている(び慢性の)タイプと、 数箇所に病変が集中してコブのようなかたまりを形成している(結節性)タイプの2通り (このほか、稀にチョコレート嚢胞を形成するものもある)があり、後者の場合は、 病変が出来ている部分の筋層だけを切除して子宮そのものは残すような手術が可能です。 ただし、後者のタイプは少数派でもあり、このような手術を実施している施設は限られています。 この手術は、痛みや過多月経の軽減には効果があるとされていますが、妊娠率の向上はあまり期待できません。 また、(嚢胞形成の場合以外は)筋腫とは違って子宮の筋層との境界がハッキリしていないので、完全に病巣を取り除くのは困難です。 したがって、時間の経過とともに再発する可能性もありますので、 この術式を選択する場合はその効果と限界について十分な説明を受けてください。

 

3.子宮全摘術

子宮全摘はやり直しのきかない方法です。 すでに子供がいる、もう40歳だから、といった理由だけで子宮を摘出する必要はありません。 全摘は子宮腺筋症があって子宮全体が腫れ上がり、一部だけ切っても症状の解決が期待できない場合、 また多発性の筋腫でコブだけ取ろうとしても子宮が穴だらけになり出血が多量になる恐れもあるような場合、 さらには閉経後に急速に筋腫が大きくなっていて悪性の恐れがある場合などに必要な手段です。 閉経前の場合、激しい癒着などがない限り、できるだけ卵巣を残す努力をすることを医師に確認したほうがいいでしょう。 卵巣を取ってしまうと一気に更年期症状が出ますし、骨粗鬆症や心疾患などの危険性も高くなり、 長期的なホルモン補充療法が必要となる可能性があるからです。 (なお、すでに卵巣嚢腫等で片卵巣を摘出している方の場合、 子宮全摘によって残った卵巣の機能も低下する可能性があります。)

では全摘手術は筋腫核出術や筋層切除術より危険でしょうか? 答えはNOです。 核出術は子宮に直接メスを入れることになりますから、非常に出血が多くなります。 全摘の場合は先に子宮につながる血管を縛ってしまって子宮を丸ごと取り出すので、出血量も少なく、 手術時間も短時間ですみます(もちろんこれは子宮と他の臓器の癒着がないと仮定しての話です)。 但し、尿管や膀胱など周囲の臓器へ損傷といったトラブルは保存的手術に比べ全摘手術のほうが多くなりますが、 その割合は平均1パーセント以下といわれますので、その点をよく考えて決断しましょう。

全摘の方法には開腹全摘術、腟式全摘術(お腹を切らない)、内視鏡下全摘術(aP16参照)などいろいろありますが、 ご本人の出産経験や筋腫の大きさ、癒着の程度などによって、どの方法が一番適しているかは変わってきますので、 ケースバイケースで検討の必要があります。

子宮を取ってしまうと「女でなくなる」と思っている方もおられるかもしれませんが、そんなことは決してありません。 「たんぽぽ」が子宮筋腫・内膜症の「患者」の会ではなく「体験者」の会と呼ばれているのは、 これらの疾患のために全摘を選んだ人々も「体験者」として参加しているからです。 月経がなくなることに一抹の淋しさを感じる人もいますが、大出血の心配をせずに旅行にも出かけられるようになって、 生き生きとした人生を発見した人もいます。 確かに全摘後に性交痛を感じるようになったという方もおられますが、逆に性生活がスムーズになったという人もいます。 一番大事なことは自分自身、およびパートナーが、全摘についての理解を十分に深めること。 初めから「女でなくなる」と思い込んでいたら、セックスがうまく行くはずもありません。 あなたの女性性は心の中にあるもので、子宮や卵巣の中に入っているものではないのです。

 

4.子宮動脈塞栓療法

UAE(Uterine Artery Embolization)ともいい、IVR(血管内手術)の一種。 足の付け根を小さく切開して動脈に細い管(カテーテル)を通し、 そこから細かい粒子状の物質を注入して筋腫に栄養を補給している子宮動脈を塞ぎ、筋腫を兵糧攻めにして縮小するのを待つ、 という治療法です。 日本では1990年代後半から行なわれるようになった術式で、主に放射線科の医師が行なっています。 最近では子宮腺筋症の治療に用いる施設も出てきています。

この方法で筋腫が完全に消滅することはありません(時に子宮内膜側に近い筋腫の場合は内腔に押し出されて、 筋腫分娩の形で体外に排出されることもある)が、およそ8~9割のケースで、ある程度サイズが縮小し、 過多月経や貧血などの症状が改善されるといわれています。 ホルモン療法と違い、一度縮小した筋腫が再度大きくなることはなく、 多発性の筋腫でも原則的に一度の施術で効果を得ることができ、再発の可能性は低いといわれます。 しかし、すべての筋腫が子宮動脈のみから栄養を得ているわけではなく、 筋腫の位置によっては卵巣や膀胱の動脈から血管が伸びていることもあるので、 そういう場合は期待した効果が得られないこともあります。また、逆に卵巣への血流が阻害されて、 卵巣機能が低下するという合併症も見られます(特に45歳以上では10%を超す割合で卵巣機能不全が報告されています)。 子宮腺筋症の場合は、一定期間は子宮サイズの縮小、過多月経などの症状の改善が期待できますが、再発することも多く、 まだ発展途上の治療法のようです。
 
UAEは新しい治療のため長らく自己負担でしたが2014年1月から塞栓物質であるエンボスフィアが保険収載されました。ただし、塞栓物質の使用に関して厚生労働省の依頼により学会が定めた術者要件、施設要件、子宮筋腫に対する実地要件を満たすことが前提となります。 合併症などが起こった場合の対応や術後のフォローアップは婦人科で行なうことが望ましいので、 なるべく放射線科と婦人科が連携して治療にあたっている医療機関を選びましょう。 また、日本では実施されるようになってまだ日が浅いため、長期にわたる予後の情報が乏しく、また、 術後の妊娠も症例が少なくて、その安全性が明らかではないため、絶対に核出が不可能な例を除いては妊娠希望者には行なわない、 という施設が多いようです。

 

5.集束超音波療法

FUS(Focused Ultrasound Surgery)ともいいます。 虫眼鏡で日光を1点に集める要領で、超音波を筋腫に集中照射して、 内部の温度を60~90度にして筋腫組織を焼いてしまうという治療法です。 日本には2002年から導入されたばかりで、世界的にもまだ施行例の少ない、歴史の浅い治療法です。 雑誌やテレビなどでセンセーショナルに取り上げられたため、多くの人が関心を持っているようですが、 まだ治療データが十分揃っているとは言えず、術後の妊娠への影響、長期的な経過、再発の割合など、 まだまだ不確定の要素が多いというのが実態だと思います。子宮腺筋症は適応になりません。

UAE同様からだにメスが入ることがなく、UAEよりも術後の痛みも少ないため、 入院の必要がないというのがメリットですが、筋腫の大きさが3cm以上、10cm以下で、一度に治療できるのが3個まで、 過去に開腹手術を受けて皮膚に傷がある場合や皮下脂肪が2cm以上ある場合はダメ、など適応の範囲がかなり限られているため、 受診しても適応対象外となる人がかなり多いようです。 筋腫も消滅するわけではなく、ある程度サイズが縮小するだけですが、 8割ほどの患者で月経痛・過多月経などの症状の改善が見られるそうです。 ただ、UAEとは違って特定の筋腫だけを狙って処置する治療ですので、多発性筋腫の場合は、 そのときに処置対象にならなかった1~2cmの筋腫が、大きくなって症状を引き起こす可能性があります。

この術式も保険診療が認められておらず、特殊な装置を必要とするため、実施施設はUAEよりさらに限られています。 メスが入らない、入院もいらないということで、いいこと尽くしのように思う方も多いですが、 どんな治療法にもメリットとデメリットがあります。 最新の治療法というのは長期的な影響についての情報が最も少ない治療法でもある、ということを念頭におきながら、 自分に合った治療法を選択してください。

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