(1)偽妊娠療法

妊娠中は排卵が起こらないため子宮内膜症の病巣が縮小することが知られています。
そこで、避妊薬(ピル)としても用いられるエストロゲンとプロゲステロンの合剤を飲んで、 人工的に妊娠しているときと同じ状態を作り出して症状の改善をはかろう、というのが偽妊娠療法です。
重篤な副作用としては血液凝固や肝機能障害などがあり、タバコを吸う人や35歳以上の人がピルを飲むと血栓症や心筋梗塞のリスクが高くなります。 また、不正出血や吐き気、気分の変動といった症状がでることもあります。
この治療には(エストロゲンの含有量が多い)中用量ピルと低用量ピルの両方が使われますが、 低用量ピルのほうが副作用が出にくいとされています。しかし、中用量ピルは、もともと内膜症や月経困難症の治療薬として認可されていましたから保険の適応になりますが、 低用量ピルは避妊を目的として健康な人が飲むものとして認可されたので、保険の適応になりません。 症状緩和の効果はさほど劇的ではないのですが、 次に紹介する偽閉経療法のように骨量の減少を引きおこしたりしないので、長期間連続して使うことができます。 10~20代にかけての若い女性の場合、偽閉経療法だけで閉経まで持ち込むことはできませんから、この治療法が有効です。 なお、日本産科婦人科学会など6団体がまとめた低用量ピルの使用に関するガイドラインによると、 子宮筋腫を持っている人はピルを使ってはいけないことになっていますが、低用量ピルで筋腫が増大したり、症状が悪化するという証拠はなく、 ピル使用の歴史が長い諸外国でも筋腫を持っている場合の使用を禁じているところはありません。
ただ、ピルで筋腫を小さくすることはできません (中高用量のピルでは筋腫が増大したという報告もあります)から、大きな筋腫が原因となっている症状(過多月経や腹部圧迫感や頻尿など)の改善をピルに期待することはできません。 筋腫は大したことがなくて、あくまでも内膜症の症状の改善ということでピルを使うのであれば、筋腫の状態を慎重に観察しながら使用することは考えられると思います。 

(2)ダナゾール療法

ダナゾールは薬品としての一般名。代表的な商品名は「ボンゾール」で、臨床ではこちらの名で説明されることが少なくありません。 脳から出される2種類の性腺刺激ホルモン(主に黄体化ホルモン)を抑えることでエストロゲンを抑制し、排卵と月経をとめます。 またダナゾールには、直接、病巣を萎縮させる働きもあり、また、免疫機能を改善する作用もあります。錠剤タイプとカプセルタイプがあります。 毛深くなる、にきびが出る、声が低くなる、体重が増えるといった副作用があります。さらに、重篤な副作用としては肝機能障害や血栓症を起こすことがあり、 もともと肝臓や血管に病気のある人は使えません。 病気のない人も、定期的な血液検査が必要です。その他、肩こり、脱力感、便秘、筋肉痛、胃部不快感、頭痛、しびれ、 関節痛、むくみなどの副作用が報告されています。ですから、使用前に血液凝固系の検査をし、定期的に肝機能検査を行なうことが望ましいでしょう。 値段は、使用量により違いますが、ボンゾールの場合1ヵ月分で1万7千円~3万2千円くらいです (薬の特許が切れた後に同じ有効成分の薬を他の製薬会社が製造して販売する「後発品」はもっと安い) 。ただし、実際に支払う金額は、保険加入者本人であるか家族であるかによって異なります(これは他の薬も同様です)。 なお、ここに記載した薬価は2002年秋時点での数字です(薬価はほぼ毎年改訂されています)。
なお、内服することで肝臓に負担がかかるのを避けるために、腟座薬やIUDに作り変えて腟や子宮に挿入したり、 腹腔鏡下に内容物を吸いだした後のチョコレート嚢腫にダナゾール液を注入したりして、薬を直接病巣に作用させるような治療法も研究されています(ダナゾール直接療法)。

(3)GnRHアゴニスト(GnRHアナログ)療法

「スプレキュア」「ナサニール」、「リュープリン」「ゾラデックス」(いずれも商品名)として知られるこの療法は、薬の仕組みはどれも同じです。 GnRHとは脳下垂体を刺激する性腺刺激ホルモン放出ホルモンのこと、アゴニストあるいはアナログはそれと同じ作用をする物質、 という意味です。
この薬を使うと、下垂体の機能が抑えられ、性腺刺激ホルモンが分泌されなくなります。 卵巣への刺激がストップするためにエストロゲンが低下し、閉経と似た状態になり、内膜症病巣の活動や増殖が抑えられる、 という仕組みです。本来GnRHアゴニストは下垂体に性腺刺激ホルモンを放出させるものですが、連続使用で刺激を与え続けていると下垂体の感受性が低下していきます。 ですから、使い始めは刺激を受けた下垂体が性腺刺激ホルモンをよく出して、不正出血を起こすこともあります(これをフレアーアップという)。 けれどもそのままGnRHアゴニストを与え続けていると、次第に下垂体の感受性がにぶって、性腺刺激ホルモンが分泌されなくなり、エストロゲンも低下していくわけです。
この方法の一番の問題は、エストロゲンを抑えすぎてしまう点にあります。そのために起きる副作用として、のぼせ、肩こり、頭痛、脱力感、便秘、 むくみ、神経過敏、胃部不快感、しびれ、にきび、悪心、不眠、うつ状態、動悸、肝機能障害、筋肉痛、下痢、めまい、腟の乾燥、不正出血などがあります。
急激に更年期と同じホルモン状態にするわけですから、一般に更年期症状として起きるものは、すべて起きる可能性があります(詳しくは薬の添付文書を参照)。さらにリュープリンでは、糖尿病の発症・悪化が報告されており、他のGnRHアゴニストでも同様の副作用が出る可能性は否定できません。使用中の体調の変化には十分気をつけ、必要に応じて検査を受けるようにしましょう。

また、低エストロゲン状態が長く続くと、骨量の低下を招きます。骨量が少ないまま更年期から老年期を迎えると、骨粗鬆症になる可能性がきわめて高いので、 治療を始める前にエストロゲン値や骨量をはかり、使用開始後も定期的にチェックし、食事によるカルシウム摂取も心がける必要があります。 開始時にすでにかなり骨量が低下している場合は、薬剤の変更も含め、検討し直す必要があります。
さらに、エストロゲンの低下から来るうつ症状も軽視できません。精神症状は人によって出方が違うので、誰にも必ずうつ症状が出るとは限りませんが、 治療中に仕事の効率が落ちたり、激しく落ち込んでしまったりした場合は薬の副作用である可能性が高いので、自分を責めたり、 いつまでもこういう状態が続くと思いこんだりせずに、冷静に対処しましょう。回りの人にもそれが薬の副作用であることをわかってもらい、 必要であれば薬の使用を中止することも検討すべきです。

これらの副作用を緩和させるために、抑えすぎたエストロゲンを合成エストロゲンの投与によって補う方法(アドバック療法)もありますが、 複数のホルモン薬を使ってでもあえてこの療法を行うことが、自分にとって効果の高いことかどうかを考えて選択する必要があります。漢方薬の併用で、 ある程度のぼせや頭痛などの更年期症状を抑えることもできますので、自分の症状にあわせて対応策を考えるとよいでしょう。 なお、GnRHアゴニストには点鼻薬と注射薬の2つのタイプがありますが、注射薬では効果が長期間(基本的に4週間)持続するように出来ているので、 副作用が強く出ても途中で止めることはできません。その点、点鼻薬では噴霧する回数を減らしたり、使用を中止したりすることで副作用を早く取り除くことができます。けれども、点鼻薬は花粉症などアレルギー性鼻炎の人には合わないかもしれません。薬の成分によっても効き方が違いますが、こうした剤形による特徴もふまえた上で治療法を選択したいものです。院内処方では薬の種類が限られていますが、院外処方の場合は選択の幅が大きいので、医師と相談して自分の都合に合った処方をしてもらいましょう。
以下に、GnRHアゴニスト療法(GnRHアナログ)の4種の薬剤について簡単な説明をします。

スプレキュア

薬品としての一般名はブセレリンで、ブセレリン療法と呼ばれることもあります。 そのうちの代表的な商品がスプレキュアで、これは点鼻薬と注射薬の2つの形態があります。 点鼻薬は、1日に3回(朝、昼、晩)、左右の鼻に1噴霧ずつ、計6噴霧を入れます。 骨量低下については、1クール(6ヵ月使用した場合)で3~4%といわれます。値段は、標準的な使用量の場合、1 ヵ月分で約27,000円です。なお、イトレリンなどもっと値段の安い後発品もあります。
一方、注射薬は、4週間に1度、通院して注射を打ちます。注射部位は添付文書によると腹部ということになっていますが、 これは腹部注射でしか臨床試験をしていないからで、実際には上腕部などに注射しているケースも多いようです。 注射部位は毎回変更して同一部位への反復注射は行なわないように、とされています。 また、薬の成分は皮膚のすぐ下に貯められて徐々に作用していくようになっているので、注射後に強くもんだりしてはいけません。 値段は点鼻薬に比べて高く、1回の注射で39,551円となっています。

ナサニール

一般名はナファレリンで、商品名がナサニールです。 こちらは点鼻薬のみで、スプレキュア点鼻薬との違いは、1日に2回(朝、晩)1噴霧ずつ、計2噴霧という点で、 効き目および副作用は、スプレキュア点鼻薬よりやや強い程度です。値段は、標準的な使用量の場合、1カ月分で約2万8千円です。

リュープリン

一般名はリュープロレリンで、商品名がリュープリンです。スプレキュア、ナサニールと作用は共通ですが、こちらは注射薬のみです。 やはり4週間に1回、通院して注射を打ちます。用量が3.75mgのものと1.88mgのものがあり、内膜症の場合は通常3.75mgを使用しますが、 体重が50kg未満の方の場合は1.88mgでもよいとされています。用量が多いほうが効き目が強く、 副作用も強く出る傾向があり、1.88mgでもスプレキュアの注射薬より強いようです。骨量低下は、 1クール(6ヵ月使用した場合)につき5~10%といわれています。注射部位は上腕部、腹部、臀部のいずれかで、副作用軽減のために毎回違う部位に行います。 注射後にもんだりすると、作用が急激に強く働く恐れがあるため、もんではいけません。値段は、1.88mgが1回分約3万9,000円、3.75mgが約5万6,800円です。

ゾラデックス

一般名は酢酸ゴセレリンで、用量によってゾラデックス1.8mgデポとゾラデックス3.6mgデポの2種類がありますが、 内膜症の治療に使われるのは1.8mgのほうだけです。リュープリンなどと同様、4週間に1度の注射で、投与部位は前腹部とされています。 太めの注射針を使って半固形の薬剤を皮下に埋め込む形を取るため、必要に応じて部分麻酔をすることがあります。 排卵を抑制する効果がリュープリンやスプレキュアより強いようです。値段は1回分が3万9,039円です。

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